アッパーにおけるスニーカー進化論


03各メーカーが凌ぎを削っていた80〜90年代のアッパーテクノロジー。デザイン主導ではなく、快適に走ることを純粋に求めたスポーツブランドの矜持が生んだ4つのアイコニックな機能は、今も昔も変わらずシーンで愛され、語り継がれている。

04NIKE SPORTSWEAR
HUARACHE SYSTEM
ランニングシューズ界における80年代のクッショニング競争を“NIKE AIR”というイノベーションで一歩リードしたナイキは、自らの手で90年代をフィッティングという新しいカテゴリーに競争の舞台を移すこととなった。その象徴が“HUARACHE SYSTEM”だ。ルーツはマヤ文明の時代から古代人が健脚を競い合うために履いていた“ワラチ”と呼ばれるメキシコの編み込み型のサンダルだったという。そのデザインは時代によって様々だが、足首とヒールとつま先の3点で革が連結されている場合が多く、その構造が足を支え、フィット感を高めている。つまり“HUARACHE SYSTEM”とはネオプレーンとライクラ、2つの伸縮素材を履き口から甲部に配した“ダイナミック・フィット・ブーティ”ではない。あくまで本質は“ワラチ”の理に叶った構造であり、足を包みこむような革新的なマテリアルが一体となって高機能を決定付けたロジックが正しい。

01adidas Originals
MICROPACER
左足の甲部にディスプレイ付きのコンピュータが搭載されたMICROPACERの登場は1984年。当時にして5万7000円の破格的な高値と近未来的なルックから、実用性を度外視したユニークなアートピース的なイメージがあるものの、位置付けは歴とした高性能ランニングシューズだった。当時はつま先に丸いセンサーがあり、甲のカバーの裏側からコードで繋がっていて、それが歩数をカウントし、液晶が表示していた。それゆえ万歩計と表現するメディアが多かったが、カタログには(歩数から導かれる)走行距離やアベレージ速度、カロリー消費量などが計測できると記載されている。つまり長く正確に走りたいランナーのための、革命的なテクノロジーだったのだ。右足のカバーには小銭入れが設けられ、アウトソールは耐摩耗性に強い素材、ミッドソールは走行中の足のねじれを防ぐために、配色の異なる3種の素材が搭載されていた。快適なロードのロングランを見据えたディテールとストラクチャーだったと言える。

02Reebok CLASSIC
INSTAPUMP SYSTEM
インスタ・ポンプについて記述するには、1989年に開発された“THE PUMP TECHNOLOGY”まで遡る必要がある。シュータン部分に施されたコンプレッサーを繰り返し押すことで、アッパーに内蔵されたブラッダー内にエアが行き届き、足とシューズがぴったりフィットする仕組みだ。このシステムを初めて搭載したのがバスケットボールシューズのTHE PUMPだった。その搭載されるカテゴリーも広がり、NBAではD.ブラウンやシャキール・オニールの、テニス界ではマイケル・チャンの着用が人気を拡散させていった。機能は進化を繰り返し、フィットの調節が前足部に限定されたミッドフットチャンバーが開発。これによりPUMP搭載モデルに汎用性が高まり、安価なプライスを可能にしたという。そしてブラッダーをアッパーに内蔵するのではなく、ブラッダー自体をアッパーにするアイデアが実現化されたのが1994年発表のInstapump Fury。革新的なヴィジュアルはフィットと軽量性を追い求めた結実だったのだ。

03
PUMA
DISC SYSTEM
1991年に発表されたプーマの“DISC SYSTEM”はシューレースの紐を結ぶ煩わしさからの解放と、足とシューズの一体化への挑戦だった。中央の“クロージャー・ユニット”が中心的な役割を果たしており、歯車を回転させることで、カチカチと音がなり、内部のワイヤーが連動して締め付けを開始する。脱ぐ際は1プッシュでシステムが解除される仕組みだ。しかし機能を支えているのは、90年代初期を象徴するヒールから甲部まで広がるAEROPREEN®と、“サイド・ユニット”と呼ばれるTPUパーツだ。これらが足の形状に柔軟に対応し、快適な一心同体感を生んでいる。また後者のディテールは素材の特性上、デザインの自由度が高いため、カラーやパターンの多彩なアレンジが可能だ。視覚化できるハイテクとして話題になったディスクだが、こと1993年のDISC BLAZEが街で人気だった理由は優れたデザインバランスが生んだ先進性だった。

editor / masayuki ozawa
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